映画ライターSYOによる作品レビュー

記録的ヒットをもたらした、計算し尽くされた“陰陽”の演出

SYO(映画ライター)

シリーズ累計興行収入約1500億円、世界各国の名所が舞台、渋谷の駅前を丸ごと作った……。断片的な“逸話”を聞くだけで、そのスケール感に驚かされる『唐人街探偵』シリーズ。2021年7月に公開された第3作『唐人街探偵 東京MISSION』(21)に続き、第2作『唐人街探偵 NEW YORK MISSION』(18)が日本公開を迎えた。

本作は、中国本国で公開初日に興行収入約58億円を売り上げ、累計では600億円を叩き出したモンスターヒット作。第1作(約140億円)の4倍以上の興収という、稀に見る大成功を収めた。ちなみに、続く第3作では約764億円というはたまた桁違いの数字を記録。こちらはなんと、中国歴代5位の興収だという。シリーズもので右肩上がりの成績を収めるのは非常に難しく、近年だと『ワイルド・スピード』か体制変更後の『名探偵コナン』か本作か、といったところだろうか。

中でも、『インディ・ジョーンズ』しかり『ターミネーター』しかり『ダークナイト』しかり、“2作目”というのは非常に重要だ。全3部作構想のものであれば物語的にも背骨と言えるものにせねばならず、1作目がヒットしたことで制作された続編であれば、どう物語を展開させるか、前作の良さを消さずにパワーアップさせるか等々、頭を悩ますところ。資金力が上がっても、過美になれば観客の心は離れてしまうものだ。ただ、こと『唐人街探偵』シリーズにおいては、実に見事な形で“進化”を成功させている。

その一つが、「毎回舞台が変わる」×「事件も変わる」という構造。第1作はタイ・バンコクで巻き起こる金塊強盗殺人事件だったが、第2作で描かれるのは、NY全土を舞台にした猟奇連続殺人事件。何らかの“儀式”のために被害者の臓器を持ち去るという内容は『セブン』を彷彿させ、「犯人の目的や人物像」「次なる標的」「謎めいた暗号」などの謎解き要素もカバー。犯人の手掛かりを求めてニューヨーク公共図書館(近年では『ジョン・ウィック:パラベラム』にも登場)に赴いたり、追跡劇でタイムズスクエアが出てきたり、名所を配置することも可能になる。NYでの撮影は苦労の連続だったそうだが、ロケ撮影をきちんと入れ込むことで“ご当地感”ならぬ、「この地で撮る」必然性も生まれてくる。

『唐人街探偵』は一見ギャグテイストが強い往年の中国大作映画に感じられるが、中身は緻密に計算し尽くされた隙のないエンタメになっている。先に挙げたフォーマットはもちろん、どこか懐かしさを感じられるカラッと明るい雰囲気は昔のジャッキー・チェン映画に親しんだ層にはなじみ深く、最新テクノロジーをふんだんに盛り込んだ映像演出(チン・フォンの脳内推理が立体化され、NYの街を鳥瞰で観ていくシーンなどが秀逸!)は、『SHERLOCK』以降の若い世代のミステリーファンにもハマるだろう。本シリーズはスマートフォンを事件の捜査に効果的に用いており、小道具の使い方も光る。

さらに言えば、「旧き」と「新しき」をそれぞれタン・レン(ワン・バオチャン)とチン・フォン(リウ・ハオラン)に担わせているのも上手い。タン・レンが体現する伝統的なドタバタコメディと、チン・フォンが醸し出す現代的な映像派のミステリーがぶつかり合い、融合していくさまは、凸凹バディのチームワークと入れ子構造になっている。

明るく、楽しく、面白い。この3要素をきっちりと守り、王道のエンタメとして観る者を満足させてくれる『唐人街探偵』シリーズ。第2作『唐人街探偵 NEW YORK MISSION』はその方向性を決定づけた重要作だが、“陽”を引き立たせるための“陰”の使い方の上手さ、さらにはその隠し方の巧みさに、非凡なセンスを感じずにはいられない。無意識のうちに観客を誘導する、その“頭脳”――本作の記録的ヒットも、計算のうちだったのだろうか。考えれば考えるほど、恐ろしい一作である。